マリー
 玄関の扉を開けると、ブルーのサマーニットに黒のパンツを履いた伊代と顔を合わせる。

「買い物に行くの?」

「お肉を買い忘れてしまったの。すぐに戻ってくるから、大丈夫よ」

 分かったと伝えるために頷いた時、優子が履いている黒のスニーカーがハの字を形作るように置かれているのに気づいた。まだ、将が帰宅するまで時間がある。

「わたしも一緒に行っていい?」

「いいわよ。今日は少し遠出をしましょうか」

 伊代は理由を聞かずに、知美の願いを聞き遂げていた。


 以前、伊代と一緒に行ったスーパーの前で車を止める。この町にはもう一つ小さなスーパーがあり、地元の人はそこで買い物をしていた。伊代も普段はそこで買い物をしている。

 薄い黄色のランプがともっている肉売り場に行ったとき、先ほど見た女性がいるのに気づいた。

 伊代は知美の手を握る。

「あとで買いましょう」

 伊代が知美の手を引き、その場を離れようとしたとき、低い声に背中を叩かれる。
< 93 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop