マリー
「白井さん、珍しいわね」

 彼女は肉売り場を離れ、知美と伊代の前に立ちふさがる。

「クラスでけがが頻発しているらしいわね」

「関係ありません。子供の前でやめてください」

 伊代は静かに、落ち着いた口調で言い払う。

「修学旅行に行くらしいと聞いたけど、本当なの?」

 射抜くような瞳に、知美は身を怯ませた。

「うちの子に何かあったらどうするの? 責任取れるの?」

「関係ありません。怪我は本人たちの不注意でしょう。何でこちらの責任になるんですか」

「あの時もそうだったじゃない。あなただって知っているのよね」

「知っているからこそ、不注意だと思うんです」

「あなたはどう思うの? 自分のせいでクラスメイトが死んでいいの?」

 クラスメイトを快くは思っていない。だが、その感情と彼らの生死は別問題だった。

 唇を噛み、何も言えずにうつむいた。

 伊代は知美と彼女の間に割って入る。そして、知美の手をつかむと、歩き出した。

「あの時に似すぎているからよ。あの子まで奪わないで」

 以前前田が言っていた、美佐が彼女の姉を殺した話が頭を過ぎる。

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