マリー
 だが、伊代は立ち止まろうとも、振りかえる事さえしなかった。

 伊代の手が離れたのは店を出てからだ。さっきまで店の中に響いていた騒々しい音楽が一掃され、じめじめとした風が肌にまとわりつく。

「ごめんなさいね。将さんに買って帰ってきてもらえばよかったわね」

 車のエンジンをかけたとき、伊代がそう言葉を漏らした。

「あの人の姉がお母さんに殺されたって言っていたの。それは本当なの?」

 心の中の晴れない感情をすっきりさせたくなり、伊代に問いかけた。

 伊代は目を見張る。そして、目を閉じると、首を横に振った。

「学校までそんなことが広まっているのね。そんなことはありえないわ。だた、大きな事故があったの。誰の責任でもない。それに巻き込まれたのよ。美佐ちゃんも、彼女の姉も」

「事故?」

 伊代はうなずいた。

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