キミが泣くまで、そばにいる
わん▽・x・▽ 契約は偶然に
1 ご主人様、でしょ?
がさり、とかすかな物音が聞こえて、私は先生のワイシャツから顔を上げた。
ひと気のない中庭の、さらに隅っこの木が生い茂った物陰。
こんな場所、誰も来ないと思っていたのに。
先生の後方数メートル、ざわざわと枝を揺らす木の下で、その人は立ち止まった。
私と視線がぶつかると、一瞬驚いたように目を丸め、それから――笑った。
教室で見るのと同じ、くしゃっとした屈託のない微笑みに、私のこわばった体はわずかにゆるむ。
もしかして、見なかったことにしてくれる――?
でも次の瞬間、彼は静かに唇をつり上げた。
整った顔に浮かぶのは、不気味な薄笑い。
それは合図だった。
高校1年の1学期。
まだ始まったばかりの学校生活に、嵐を呼び寄せる強い風が、頭上の枝葉を乱暴に揺らしていった。