キミが泣くまで、そばにいる


 私はとても出来の悪い生徒だったに違いない。

 理解力はないし、集中力は続かないし、話は脱線させるし。

 でも先生は根気よく私の勉強をみてくれた。
 学ぶことの楽しさを、丁寧に教えてくれた。

 優しくて、物知りで、笑顔が可愛い先生。好きになるのに、時間はかからなかった。


『私、先生のいる学校に行きたい』

 朝比奈高校は、県内ではちょっとした進学校だ。
 担任も、両親ですら、「さすがにそれは無理でしょう」と本気にしてくれなかった。

 そんななか、佐久田先生だけが応援してくれた。

『うん。頑張れ。知紗ならできる』

 小さな目を眼鏡の奥で優しく細めて、先生は言ってくれた。

『合格したら、ご褒美あげるよ。なにがいい?』

『本当?』

 私は勉強なんか大嫌いだ。

 でも、先生が教えてくれたから、私を信じてくれたから……。

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