キミが泣くまで、そばにいる


 震えそうになる声を懸命に絞り出す。

「知紗、本当に」

「もう、いいから。謝んないでよ先生」

 悲しげに私を見て、先生は「ごめん」とつぶやいた。

 今日は風がない。

 頭上の枝も揺れない。

 私と先生のあいだの沈黙を埋めてくれるのは、ときおり校舎のほうから聞こえてくる遠いざわめきだけだ。


「彼女、待ってるんじゃない?」

 先生は顔を上げた。

 まだ苦しそうな表情だ。

 先生の眉間のしわが、悲しい。

「私はもう、大丈夫だから。わかったから」

「うん」と消え入りそうな声で答えて、「それじゃあ」と背を向ける。

 男の人なのに、あまりにも小さな背中だった。


「先生!」

 振り向いた顔に、言う。

 胸がズキズキしてうまく笑えてないかもしれないけど。

 言わなきゃと思った。

 私、先生のこと、本当に――


「結婚、おめでとう」


 沈んだ顔をほんの少しだけ緩めて、先生は校舎の向こうに歩いて行った。

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