キミが泣くまで、そばにいる




 しばらく動けなかった。

 あたりは風もなく、時が止まったように静まり返ってる。心臓だけがとくとくと、わずらわしいほどいつもどおりだ。

 いつのまにか桃茶の缶が地面に転がっている。でも、拾い上げる気力がなかった。

「いい加減、ここが人目につきやすい場所だって学べば?」

 先生が消えた方向をぼうっと見ていたら、木の陰からひょろ長いシルエットが現れた。

「聞いてたの?」

「聞こえたの」

 訂正され、私は正面からアカツキを見上げた。

 微笑み王子は笑っていなかった。
 無表情。だけど、かすかに眉が下がっている。

 不意に思い出した。
 今みたいに笑っても怒ってもない無感情な瞳で、彼が言った言葉。

 ――泣くことになるよ

「……知ってたの? アカツキ」

「知ってた」

 簡潔な答えだった。

 先生の影を追うように、王子は木々の向こうの校舎に視線を向ける。

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