キミが泣くまで、そばにいる


「セイの家が学校に寄付してる関係で、そういう情報がたくさん回ってくるんだよ。だから俺たちのグループはみんな知ってた」

 非常勤講師の佐久田圭が、結婚を機に退職すること。

 それを知っていたから、アカツキは言ったんだ。

 ――やめたほうがいい

 それなのに私は、何も知らないまま、彼の言葉を突っぱねた。

「バカみたい……だね、私」

 ――本気だもん!

 あのとき、すべてを知るアカツキに、私はなんて言ったっけ?
 ……思い出せない。

 先生を前にしていたときの恥ずかしさはもう消えていた。

 今はただ、からっぽだ。
 胸に詰まっていた先生への気持ちが、炎に巻かれて灰になって、心は全部、からからにカサついてる。

「ほんと、バカみたい」

 アカツキは何も言わないけど、ひとりでぐるぐる踊り続けていた私は、さぞ滑稽だっただろう。

「わ、笑っていいよ」

「……ん」


 いつもみたいに、バカ笑いすればいい。笑い飛ばしてくれればいい。

 それなのに、アカツキは笑わない。

 じっと、私を見下ろしてる。

< 123 / 273 >

この作品をシェア

pagetop