キミが泣くまで、そばにいる
「うん、午後の部をちょっと見たら帰ろうかなって。朱里も塾があるし――あ、遠坂先生!」
ふいに月乃さんの視線が私の頭上を飛び越した。
振り向くと、ジャージ姿の女の人が歩いてくる。顔だけ知っている、二年の学年主任の先生だ。
「あら、井端さん。久しぶりねえ」
うちの母親と同じくらいの年の遠坂先生が、メガネの奥の目を細めた。
「月乃姉はこの学校の卒業生なんだよ」
高遠先生が担任だったのだと、アカツキが説明してくれる。
月乃さんと先生は抱き合いそうな勢いでおしゃべりを始めた。ずいぶん仲が良かったらしい。
「そういえば井端さん、お母様は……」
「それが――」
声を潜める彼女たちを横目に、アカツキは朱里さんに向き直る。
「じゃあ、俺ら、昼飯食わないといけないから行くよ。月乃姉にも言っといて」
こくんとうなずいた朱里さんに、会釈しながら横を過ぎようとしたとき、彼女のトートバッグに目が行った。
「ああっ、そのバッグ!」
朱里さんがびくりと肩を震わせる。アカツキが何事かと振り返った。