キミが泣くまで、そばにいる


「そ、そ、それはもしや」

「知紗?」

 私は朱里さんにじりじりとにじり寄り、彼女のバッグを指さした。

「それ、キタイチの限定トートでは……?」

 言ったとたん、朱里さんの顔がぱっと華やぐ。

「キタイチ、知ってるの?」

「もちろん! 大ファンなんです!」

「あたしも凄く好きなの!」

「うわー仲間! 可愛いですよね!」

 キタイチというのは喜多尾一夜(きたおいちや)という名前の現代美術作家だ。

 彼の描く、歪んだ線で表現された女の子や動物の絵が一部のファンに大人気で、グッズ展開されている。

「可愛い、かな?」

 バッグに描かれたキリンとゾウを見て、アカツキが苦笑する。

「どっちかっていうと怖いけど。なんか歪んでて」

「なに言ってるのアカツキ! この歪みが可愛いんじゃない!」

 私が噛みつくと、朱里さんも「うんうん」とうなずいた。

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