キミが泣くまで、そばにいる
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西に傾いた太陽が、クリーム色の外壁を照らす。玄関先の小さな花壇で、色とりどりの花が咲いていた。
表札には可愛い書体で『IBATA』と書かれている。
「ただいま」
玄関の扉を開けて、アカツキが振り返る。
「何してんの、知紗。おいで」
「え、いや、私はここで」
「送ってくれたんだし、このまま帰らせるわけないでしょ」
「え、いえ、でも」
結局、強引に腕を取られ、玄関に引っぱりこまれた。
まず目に入ったのは、きちんと並べられた女性ものの靴と男性用の大きな革靴だ。
いつも雑然としているわが家と違って、井端家は細かいところまできちんと整理整頓されている。
家の中は、当たり前だけど、アカツキの匂いがした。
「あっくん、おかえりー」
奥からエプロン姿の月乃さんが現れ、アカツキの顔がぱっと華やぐ。
まるでスイッチが切り替わったみたいな反応に、えっと思った。
静まった森の奥に、いきなり強烈なライトが照射されたみたいな違和感。
白い顔に浮かんでいるのは、それくらい不自然な、作りこまれた笑みだった。