キミが泣くまで、そばにいる


 この胸の高鳴りは不可解だ。

 アカツキの振る舞いや、佇まいや、存在そのものが、私の意思を無視して感情を波立たせる。

 王子の匂いに満ちたこの部屋にいると、私のほうが変な病気になりそうだよ。

 ふと、机の正面に張られたコルクボードに目がいった。

 メモや付箋や英単語が書かれた紙にまぎれて、AKATSUKIと象られたシルバーのチャームがかかっている。そのとなりに、何枚かの写真が貼られていた。

「アカツキって」

 ノートパソコンをいじっていた彼が、「ん?」と振り返る。

「どういう意味なの?」

「え?」

「アカツキの、名前の意味」

「ああ、暁(ギョウ)ね」

 マウスから指を放し、本棚から辞典を取り出す。ぱらぱらとページを捲り、私に見せるようにテーブルに置いた。

「”空が白んでくる明け方”だってさ。簡単に言えば、夜明け」

「ああ、だからか。なるほど」

「何がなるほど?」

< 162 / 273 >

この作品をシェア

pagetop