キミが泣くまで、そばにいる


「ど、どうしたの?」

「なんでも、ない」

 テーブルに肘をつき、うなだれるように顔を隠してしまう。

「もしかして、また具合悪くなったんじゃ」

 おろおろしながら手を伸ばすと、細い肩がかすかに震えていた。笑いをこらえているときみたいな細かな揺れに、思わずかっとなる。

「もう! 人が真剣に心配してるのに」

 無理やり顔を覗き込んで、息をのんだ。


 アカツキは真っ赤だった。
 唇を噛み、眉を下げ、大きな黒目はうるんでいる。

 目が合うと、彼はぱっと顔を逸らした。


 何、今の顔。


 ふいに胸が締め付けられた。肺が軋んで、痛みが走る。

 まさか、と思う。

 アカツキ、今――



「ほんとに……知紗は、なんでそんな」

 彼が何かを言いかけたとき、

「朱里が帰ってきたわよー」

 階下から、月乃さんの声が聞こえた。


< 164 / 273 >

この作品をシェア

pagetop