キミが泣くまで、そばにいる
長い腕は、私の後頭部に回り、無造作にまとめた髪に触れた。
「俺は下ろしてるほうが好きだけど、結ぶ必要があるなら、こういうヤツのほうが似合うんじゃない?」
飾り気のないシリコンのヘアゴムの上に、何かが巻かれる。
手を伸ばすと、ふわりと柔らかな布が指に触れた。
「シュシュ?」
「あげる」
私から手を離すと、アカツキは柔らかく表情を崩した。
「かわいいよ、知紗は」
バクンと心臓が跳ね上がった。
「なっ、な……」
声を失ってるあいだに、「じゃあね」と背中を向けてしまう。
遠ざかっていく背中を呆然と見送っていたら、派手な頭が途中で一度振り返った。
右手を小さく掲げて、また歩き出す。
人が行き交う駅前で、喧騒に負けないくらい胸が激しく鼓動していた。
なに……今の。