キミが泣くまで、そばにいる




「なんで……私がこんなことを……」
 
中庭の隅に設置された自販機の前でため息をこぼす。

ボタンを押すと派手な音を立ててジュースの缶が吐き出された。
 

イケメン5人は賭けをしていたらしい。
 
校内で適当に声をかけた女子10人に『誰がタイプ?』と問いかけ、一番多く票を集めた人間の勝ち、というどうでもいいゲーム。

ところがその賭けは、きれいに2票ずつ分かれて決着がつかなかった。
そこで、最後の投票者として私が連れてこられた。


「それで、なんでパシリまで……」
 

ピッ、ガタン。

イチゴミルクが吐き出されたとき、近くで声がした。


「あれ、知紗……じゃなくて真辺さん」
 

振り返ると、スーツ姿の若い男の人が目に入る。


数学を教えている彼――佐久田圭(さくた けい)先生は、学校ではあまり目立たないけれど、教え方がうまいから生徒たちからは慕われている。

そんな彼を見て、私の心は一気に弾んだ。


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