キミが泣くまで、そばにいる
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何食わぬ顔をしながら、ナースステーションの前を通り過ぎる。心臓がバクバク鳴っていたけれど、どうにか涼しい顔をキープした。手のひらには汗が滲んでいる。
点滴をつけたまま歩いているパジャマのおじさんや、忙しそうな看護師さんとすれ違う。目的の病室はすぐに見つかった。
3502号室。
番号プレートの下に、名前が書いてある。それを見て、息をのんだ。
『井端友恵』
開いているドアからそっと中を覗きこむと、黄色のカーテンが目に入った。ベッドがふたつ。でも手前のベッドは空だ。
奥のベッドはカーテンで覆われていて、脚しか見えない。そのとき、シャッと音を立てて、カーテンが開いた。
中から現れたのは、茶色の髪をひとつにまとめた女性だ。紙袋を手に持って、こちらに歩いてくる。
隠れることもできず、立ち尽くしていたら、目が合った。
「あれ、知紗ちゃん」
目を丸めている彼女に、私はおずおずと頭を下げた。
「こんにちは……月乃さん」