キミが泣くまで、そばにいる


「もともと治せない病気だったんだけど……今年の春先に、他の場所にも悪いところが見つかって」

 それは、アカツキの受験が終わった直後のことだったらしい。

 病気の進行を遅らせる治療をしていた最中に、別の場所に見つかった悪性腫瘍。

 それまではかろうじて自宅で過ごせていたけれど、また入院を余儀なくされた。

 今度はいつ退院できるのか、そもそも退院自体ができるかどうかわからない状態で。

「そう、だったんですか……」

 月乃さんがうなずいた。弱々しい笑みで、私に気を遣わせまいとしているのが分かる。


 目を閉じた。

 まぶたの裏にちらつくのは、桜の花びらだ。
 今年の春、高校に入ったばかりのころ。接点はなかったけど、たぶん、一番最初に目に入った。

 桜が咲き誇る窓際の席で、ひときわ目立っていた、砂色の髪。

 あの頃すでに、彼のお母さんは病院にいたんだ。


 知らなかった。

 ……アカツキは、ずっと笑っていたから。


「あっくん……」

 月乃さんの声に顔を上げる。

 談話室の入り口に、制服姿のアカツキが立っていた。

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