キミが泣くまで、そばにいる


 
「あっちぃなーもう。校長の話、長すぎだろ」

 蒸し風呂のような体育館から吐き出された生徒たちは、額に汗をかきつつもみんな晴れやかな顔をしていた。

 終業式を終えて、いよいよ気が浮き立っている。

 レミと別れ、ひとりでトイレに向かいながら、窓の外を見た。真っ青な空に綿菓子のような雲が浮かんでいる。

 4月にアカツキと契約を交わしてから約3ヶ月。

 毎日のように名前を呼ばれ、パシリにされ、放課後を一緒に過ごしてきた。

 明日からしばらく、あたりまえのようだった犬の日々が、なくなる。

 不思議だった。

 最初の頃は、アカツキから解放されたくて、弱みを握ろうとあとをつけたこともあったのに、いざ自由になると思うと、ちょっと寂しい。

 夏休みになったら、アカツキと会えなくなるのか……。

 物思いにふけりながらトイレのドアを開けようとしたとき、中から尖った声が聞こえた。

「つか、なんであの子だけ、いっつも王子のそばにいんのー?」

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