キミが泣くまで、そばにいる
「ピーチティー……?」
誰にも頼まれていない飲み物を前に、ぽかんとしていると、彼はくしゃっと表情を崩した。
「知紗のぶん」
「……えっ!?」
「ちょうどひとりぶん、金が余るし」
私は桃のイラストがあしらわれた缶を、おそるおそる受け取った。
「あり……がとう」
ピーチティー、大好きなんですけど。
ピンポイントで私の好きな飲み物を選ぶって……天才?
思いがけず胸がじんとした。
これからこき使われるというのに、こんな些細な優しさにほだされるなんて、私って単純……。
人の弱みにつけこんで脅すなんて最低の行為なのに、アカツキの笑顔を見ていると肩から力が抜けていく気がした。
警戒して体を緊張させている自分が、なんだかバカみたいに思えてくる。
「戻ろ、知紗」
「う、うん……」
ジュースの缶を3つずつ抱えて、先を行く微笑み王子の細長い背中に続く。
空からまっすぐ注ぐ太陽が、彼のアッシュブラウンの髪を絹糸のように白く輝かせた。
・・・
そしてアカツキとふたりでベンチに戻ったあと、中庭には、
「おしるこぉぉ」
というトワくんの叫びが響き渡ったのでした。
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