キミが泣くまで、そばにいる


 1学年の数学は、私たち3組を含めた1組から4組までを、お腹がぽっこりと突き出た40代の多田先生が、5組から8組を24歳の佐久田先生が教えている。

「佐久田センセーの授業ってすっごくわかりやすいんだって。おまけに優しいし」

「そ……そうなんだァ」

 しらじらと相づちを打ちながら、メガネの少し気弱そうな顔を思い出した。

 学校で先生の授業を受けたことはないけど、教え方がうまいことは身をもって知っていた。公式の独自の覚え方をアドバイスしてくれたり、分からないところは分かるまで根気強く説明してくれたり。


 ――約束だよ?

 頭の中に、先生の困ったようないつもの微笑みが浮かんだとき、

「知紗―!」

 窓際から声が放たれて、私は反射的に席を立った。

「はいぃ!」

 席に横向きに座って長い足を組んでいる微笑み王子は、満面の笑みで私にプリントを差し出す。

「これ、職員室に持ってって」

「はい!」

「それと今日の帰り。いつもんとこ寄るから、荷物持ちよろしく」
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