キミが泣くまで、そばにいる
「失礼します」
扉をスライドさせると、教室とは違う、どこかぴりっとした空気がこぼれ出る。
無人の事務用デスクが4つくっついて、狭い部屋の真ん中に島のように浮いていた。職員室の一角を切り取って貼り付けたみたいな部屋だ。
クラスを持たない非常勤教師たちが使う準備室。そこにいるのは今、ひとりだけだった。
ホワイトボードにペンを走らせていた彼が、私を見て微笑む。
「やあ、知紗」
メガネの奥の目が柔らかく緩むと、私の心はきゅっと締まる。
「先生」
扉をしっかり閉めてから、私は佐久田先生に駆け寄った。白衣を羽織った先生は、スーツ姿のときよりもずっと数学教師っぽい顔をしている。
「ほかの先生はいないの?」
「ああ、ちょうどみんな出払ってて」
いつもの困ったような笑みを浮かべたまま、先生はキャビネットの上に置かれた電気ポットに近づいた。
「知紗も飲む? コーヒーしかないけど」
「ううん、いいや。それより、急に呼び出されたから、びっくりした」