キミが泣くまで、そばにいる
この場で質問する気なんてなかったのに、ノートを写す流れで自然と疑問が湧き出る。それだけノートが分かりやすいということだ。
結局私はアカツキからいろいろと教えてもらった。
「ありがと。多田先生の授業より分かりやすかったかも」
ノートを返すと、アカツキは「それはよかった」と他人事のように笑う。
『小間使いになれ』なんて言い出した経緯があるから、今度もノートを貸した見返りに何かを要求されるんじゃないかと一瞬不安になったけど、考えすぎだったみたい。
微笑み王子は私から笑顔でノートを受け取ると、すぐに自分の勉強に戻った。
なんだ、いい奴じゃないの、アカツキってば。
ちょっと拍子抜けしていると、視界の隅で人が立ち上がった。
となりのテーブルの高槻くんだ。
彼は腕時計を確認すると、あわてた様子でカバンに教科書を突っ込んだ。
「お、レオ。迎えの時間?」
トワくんが声をかけると、
「ああ、帰る。じゃあな」
高槻くんは短く答え、大急ぎでお店を出て行った。自動ドアに消える背中に、あっけにとられる。