駅前ベーカリー
シュガートーストな休日
 岡田の念願が叶い、岡田は理真の家に来ていた。

「そんなに汚くないじゃないですか。」
「が、頑張ったから…でもその代わり仕事が全然…」
「丸つけとかなら手伝えますよ?」
「え、ほんと?助かる!」

 丸つけは意外と重労働だ。テストが6枚分と算数のドリルの丸つけが残っていた。本当は家とは言えどデートなのだから仕事なんて全て片付けておきたかったがそうもいかなかった。それに理真としてはそこまで完璧を目指さなくても岡田の前では良いようにも感じていた。

「んー…肩が痛い…。」
「デスクワークが長いんですか?」
「ほんとは子どもと向き合う時間を長くしたいけど、実際はそうもいかなくて…理想と現実のギャップに潰されそうだよ。」

 理真は溜め息をついた。肩が痛くて腕を思い切り伸ばす。

「ちょっと休憩しない?ドーナツ買ってあるの。岡田くんはそこに座っててね。」

 そう言うと理真はすっと立ち上がった。そんな理真の腕を岡田はそっと掴む。

「…?」
「僕、いつになったら名前で呼んでもらえます?」
「え…?」

 少し拗ねたような声は何だかいつもより子どもっぽい。というか、理真はこんなに幼い岡田を知らない。

「…どう、したの?」

 初めて見る岡田の姿に理真は戸惑う。ただ、その戸惑いは嫌悪感からくるものではなく、どちらかといえばむしろ…

「僕は理真さんって呼んでるのに、理真さんは下の名前では呼んでくれないんです?」
「っ…ごめん、なさい。真面目に言ってるってわかってるし、呼ばない私が悪いけど…でも、…可愛いこと、言ってる。」
「えぇ?どこが可愛いんですか!」

 名前で呼ぶこと云々ではなく、ただひたすらに目の前の岡田が可愛く見えて仕方がない。それは惚れた弱みからだと言われたら反撃しようがないが、きっとそれだけでもないと思う。

「理真さん?」
「ごめんね、凛玖くん。私、言われないと気付かないこといっぱいあるから、こんな風にちゃんと言ってもらえるとすごく助かる。すぐ直せるから。」

 理真がそう言うと、岡田は少しだけ照れた様子で微笑んだ。
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