駅前ベーカリー
「どうしました?」
「…凛玖くんばっかり、ずるい。」
「何がです?」
「私をドキドキさせる。」

 理真は首を伸ばして、岡田の頬に唇をつけた。突然のことに今度は岡田の方が顔を赤くする。

「理真さん!?」
「…お返し。」
「…じゃあ、僕も。」

 岡田の唇が理真の頬に触れる。次は鼻に。そして額に。

「っ…多いよ!」
「…好き、だなぁって思ったから。」
「え?」
「好き、です。理真さんはどうですか?」
「っ…わ、私?」
「言ってほしいなぁって。ダメですか?」

 こんなこと言われては言わないわけにもいかない。でも、ただ恥ずかしい。

「…私、も、好きだよ、凛玖くんのこと。大好き。」

 大好きなんて、男の人に対して初めて言ったかもしれない。それを考えると余計に恥ずかしくなる。頬が熱い。
 恥ずかしすぎて岡田の胸に顔を埋めると、岡田の腕が理真の背中に回った。

「…子どもですみません。聞きたくなっちゃって。理真さんの口から好きって。恥ずかしくなっちゃいました?」
「今、顔あげられない。」
「じゃああげなくていいから、このままで。」

 岡田の腕が強く理真を抱き締める。辛いこともうまくいかないこともたくさんあるけれど、岡田が笑って、ときには真剣な顔をして話を聞いてくれたり、こんな自分でも好きだと言ってくれる。それが間違いなく今の自分を癒してくれている。甘えてないと言われても、本当は甘えている。心の一番奥で。

「…ありがとう。」
「僕の方こそ。」

 少しずつ瞼が下りてくる。岡田の優しくて甘い香りに包まれるだけで、心の底から安心できる。

「あ、寝ちゃった。本当に、可愛い。」

 岡田のキスが眠った理真の頬にそっと落ちてきた。

*fin*
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