幻想
「喉が渇いた」
 大人げない態度を鈴音はした。素直になりたいが素直になれない。でも、待たされるのは嫌いだ。怒っている、というのは遠回しに主張した。
「何を飲む?」と恭一は吐息を鈴音の耳元で囁き、「それよりもまずは待たせたことを詫びたい」と優しさと力強さを合わせもった抱擁をした。
 ああ、身を委ねてしまう。力が抜ける。思わず手にもっていた文庫本を落としてしまった。
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