幻想
 鈴音は、まだ抱かれていたいが、文庫本を拾わなければならず、周囲の目が気になった。人というのは面白いもので普段は他人のことなど気にせず生きているにも関わらず、色恋沙汰関連の行動には目を向けてくる。その複数の眼差しには、憧れと好奇と、たまに辱めを乗せていることを、鈴音は知っている。ちなみに彼女が色恋沙汰関連の行動を目撃した場合に向ける視線は、脱衣、だ。男女よ、脱げ、その場で脱げ。と念じるが、事はそう単純にうまくは運ばない。当然だ。
 恭一が腕時計をしきりに気にしている。
「時間が気になる?」
 鈴音は訊いた。
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