幻想
 そういう話しまで彼とは出た。しかし、角砂糖が地面に溶けるように、甘さという記憶だけが残った。
「あれ、あれ、あれ、さて、どこかな、なにがでるかな」
 前の方から声が聞こえた。声は低音で魅力的なのだが、どこか頼りない。そんな声。
 男が胡桃の方に近づいて来る。頼りない男に胡桃は声を掛けた。
「どうされました?」
 男の動きが止まる。目と目が合う。先ほどまでとはうって変わって力強い目つき。
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