夜桜

「どうするの、この料理。5人分あるのに」


いやいや、そこじゃないから。

彼女は肝心なことに気づいていない。

料理よりも何より、密室に二人きりだという重大な事実に。


「ごめんなさい、せっかく、みんなでワイワイ楽しもうって思ってたのに。
他の人が来ないなら、瀬上さんも帰るとか言わないですよね?
これ、食べていってね。
一人じゃ困るから」


彼女がすがるような顔をする。


冗談じゃない、こんなまたとないチャンスに、黙って帰れるわけがない。
< 20 / 55 >

この作品をシェア

pagetop