夜桜
「どうするの、この料理。5人分あるのに」
いやいや、そこじゃないから。
彼女は肝心なことに気づいていない。
料理よりも何より、密室に二人きりだという重大な事実に。
「ごめんなさい、せっかく、みんなでワイワイ楽しもうって思ってたのに。
他の人が来ないなら、瀬上さんも帰るとか言わないですよね?
これ、食べていってね。
一人じゃ困るから」
彼女がすがるような顔をする。
冗談じゃない、こんなまたとないチャンスに、黙って帰れるわけがない。