略奪ウエディング
衝撃の瞬間
「君の仕事は、矢崎と沖田と萩窪に引き継ぐから三人に振り分けておいて」
「はい。分かりました」
翌日、会社で梨乃に伝えると彼女は明るい笑顔で返事をした。
それを見て幾分安心する。
昨夜の彼女は明らかに違っていたから。
まるで何かから逃れているかのように俺を求め、その手を伸ばしていた。
俺もそんな彼女の激情に飲み込まれ、求められるがままに彼女を包み込んだ。
果たして俺は、彼女を救えたのだろうか。
「課長。専務室から内線です」
ふと言われ受話器を取る。
そのまま呼び出されて課を後にした。
――「片桐くん、今期の二課の業績は創立以来の輝かしいものだったよ」
専務に言われ謙遜する。
「ありがとうございます。時期が味方したのでしょう。今、この都市ではニュータウン開発が目覚ましいですから。来期もこの調子で頑張ります」
「来期はもう、いいよ」
専務の言葉に首をひねる。
「いい……と言いますと?」
「君は確かアメリカ支社への勤務を希望していたね。
横浜支社長からも推薦が上がっている。来期はそちらでその力を発揮したまえ」
「……え」
……転勤。アメリカ…。
初めから望んでいた。そのためにこちらで頑張って結果を出してきた。
「……あの」
「ん?何か不満があるのかね?」
「いえ。…ありがとうございます」
喜ぶべきことだ。ようやく望みが叶った。
だが。
……何故だろう。胸騒ぎが俺の心に広がっていた。