略奪ウエディング

消えた笑顔


「…あ、…あの、課長…」

お父さんが入って行き、閉まった玄関のドアを見つめたまま動かない課長を呼ぶ。
何からどう話したらよいか分からない。

「私、昨日…」

「…もう一度、聞いてもいい?」

彼は私を見ないままで言う。

「…君は昨日…どうして俺のところに来たの…?」

「…あ…」

昨日。
東条さんの気持ちが、痛いほどに心を刺して…耐え切れなかった。
課長を愛していることを…間違いだとは思いたくはなかった。自分が心から愛せる人は、課長以外にはいないと実感したかった。

その胸に抱きしめられて、温かく包まれたかった。冷たい闇の世界から、這い出るように課長を求めた。
人を傷付けて、自分には愛を求める資格なんかないと思った。そんな気持ちを課長に溶かしてもらいたかった。

「今さら彼に会って…何を話したの」

課長は、東条さんの本心を知らない。彼があの日吐いた嘘も、流した涙も。

「彼は…本当は…」

言いかけてやめた。
課長には言わない方がいい。
課長に話したなら、東条さんの気持ちを無駄にしてしまう気がした。

「…罪悪感?」

「え…」

「昨日、俺に対して悪いと思って抱かれたの?」

彼の言葉に背筋が凍る思いがした。
どうして…?そんなこと…。

「俺は…君が、可愛くて…。ただ、愛しいとしか思っていなかった。…君は、…そうではなかったの?」

私も…あなたが好きで。ただ、好きで…。それだけだった。罪悪感だなんて、考える隙もないほどにあなただけを見ていた。


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