略奪ウエディング


どんどんと小さくなっていく愛しい人の背中。

追いかけて、抱きしめて、すがり付きたい。
私にはあなたしかいないのだと、泣き叫んで愛を乞いたい。

そう。…彼の言う通り。
私は東条さんの存在を捨てきれなかった。
涙を流した彼の愛を、受ける気もないのに同情して…余計に苦しめたの。

こんな私を課長が見破らない訳がないのに。

「……いや…」

涙で滲む目をこすり、彼の背を見つめる。
だが再びそれが滲んでぼやけていく。

「……いや、……課長…」

お願い。
このままいなくならないで。
どうか私のところに戻ってきて。

「…いやぁぁ……」

我が儘だと責められてもいい。自分のことしか考えられない、卑怯な女だと後ろ指を指されても構わない。

あなたさえ私のそばにいてくれたなら。

私には、後は何も残らなくてもいい。
お願い………。

課長に巻いてもらったマフラーだけが、彼の優しい温もりを、そんな私に伝えていた。


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