略奪ウエディング
――「また君を、…この腕に抱けるかずっと…不安だった」
彼女を見下ろして正直な気持ちを伝える。
「私も、同じことを考えていました」
ニコリと笑う彼女の口が、カタカタと震えている。それに気付いて微笑みながら言う。
「…いいよ、泣いても。俺が悪いんだから。…全部、受け止めるから」
そう言った途端、彼女の目からは大粒の涙がポロポロと流れ出した。そう、これまでに感じた不安や悲しみを全部洗い流して。本当に…ごめん。
その涙をキスとともに拭い去る。
あれからホテルの部屋に入った俺と梨乃は、ドアを閉めた瞬間、抱き合ってベッドへと流れ込んだ。
このわずかな時間に生じた亀裂を肌で縫い合わせるかのように。
キスをしながら彼女の髪を指で梳くと、それはサラサラと心地良い感触を感じさせる。
透き通るようなその肌を撫でると、しっとりと吸い付くような感覚とともに、甘い吐息が聞こえてくる。
その何もかもが、俺を次第に狂わせていく。切なさが胸に吹き荒れる。
こんな気持ちを忘れられるはずなどなかったのに。
そんな中思わず、引き出されるように俺の口から零れ落ちた言葉。
「梨乃……、愛してるんだ。どうにかなりそうなほどに……。平気じゃいられなくなる」
「課長…本当に…?」
彼女の涙がさらに溢れて止まらない。
俺は生まれて初めて女性の目を真っ直ぐに見つめてそんな言葉を口にした。
こんなに喜ぶのならもっと早く言ってあげれば良かった。
自信がないだなんて言い訳ばかりをして何を迷う必要があったのだろう。
そう、君を愛してる。
好き、なんかじゃ足りない、強く湧き上がる思い。
君はきっと、誰よりも幸せになれると今は自信を持って言える。
だって、俺が、全てをかけて君を愛しているから。君は誰よりも愛されていると言えるから。