略奪ウエディング
送別会
***
「豊島町の分譲マンションの入居者は現在八割に達している。残り二割のうち、商談の予定が入っている部屋は五軒、あとは…」
会議は滞りなく進んでいる。
俺は部屋に待たせている梨乃のことを考えないようにしながら壇上で淡々と話していた。
――「色気ムンムンで女の目を釘付けにして。嫌だね、フリーの頃よりモテる男って。嫌味くさいですよ」
休憩中、自販機の前の椅子に座ってコーヒーを飲む俺の隣に牧野が座って言う。
「え?何だって?」
彼が何を言いたいのか分からず聞き返す。
「何って。フェロモンダダ漏れ。今の課長は男の敵。危険人物。今、目が合った女はあなたに惚れる」
「は?」
「ははは。無自覚か。面白いな」
彼は笑いながらコーヒーを飲む。
「牧野。何だよ」
「安心しました。もう、大丈夫みたいですね。エリートのくせに課長も案外恋愛下手ですね」
牧野の言葉に俺は自嘲気味に笑った。
「そうだな。バカみたいだ。迷って、傷付けて、のた打ち回ってる。…軽蔑するか?」
俺が言うと牧野も笑顔のまま俺を見た。
「しませんよ。むしろ安心します。一つくらい欠点がないと人間らしくないですからね」
「欠点だらけだよ。君には教えないけどね」
「うわ。やっぱり嫌味くさい。やっぱ奥さん奪っちゃおうかな。腹が立ってきました」
「やめろ。異動したいのか」
「うわ。最悪だ。パワハラだ」
二人で笑い合う。
梨乃に対しては、本当にうまくいかない。
こうして話している間も、頭の中は夕べの彼女の様子ばかりが浮かんでいる。
そんな自分が、何故か嫌いではない。