略奪ウエディング
「いやいや、課長!結婚するのにこれ以上モテてどうするんですか!吊るし上げのつもりが反則でしょ!」
司会がさらに突っ込み皆は笑う。
「これはもう、キスでもしていただいて女性たちに示していただかないとね!俺に惚れるな!、売約済み!って」
「お、おい」
さすがに焦る。なんでそんなこと…。
そんな俺の意思を無視して会場からは賑やかな手拍子と共に「キスコール」と「ダメコール」が沸き起こっている。
「キース!キース!」
「ダーメ!ダーメ!」
どうしろって言うんだよ…。
ふと梨乃のほうを見ると、顔を上げて俺を見ている。
その目にこう言われている気がした。『皆の前で、できないの?私を本当に好きなの?』と。
次の瞬間、俺は彼女の顎を掴むと上に向け、自分の首をクイッと下げてキスをした。
「きゃぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁ!」
女性たちの声が大きくなる。
それを聞きながら唇をゆっくりと離した。
梨乃は真っ赤な顔で唖然としている。
俺はそばにあったビールジョッキを手にすると皆の方を向いた。
「早瀬のこれからの幸せと、会社のますますの発展を願って。乾杯!」
俺が言うと皆はジョッキを上に上げて「かんぱーい!」と声を揃えて言う。
梨乃の方を向いて思う。
これからはもっともっと驚かせてあげる。
君を最高の花嫁にするって、君を取り戻したときに誓ったんだ。
「…悠馬、ありがとう」
梨乃が小声で呟いた。
「朝飯前だけど?もっとしようか?」
笑いながら言うと彼女は俺から目を逸らした。
「…もう。キスのことじゃなくて…。……余裕なんだから。ほんと、信じられない」
…余裕なんてないよ。本当は牽制したんだ。君は俺のものだって。…内緒だけどな。
俺は平然とした態度を崩さずに、笑っていた。