略奪ウエディング
彼が好きなのかとしつこく彼女に問うと、彼女はサラリとお見合いだと答えた。
さらには、これからお互いのことを知っていくとまで。
それじゃ、俺のほうがよりお互いのことを知っているじゃないか。
何故、婚約者が俺ではないんだ。
自分でも滅茶苦茶なこじつけだと分かっている。
だが、彼女を誰にも取られたくはない。
俺の中で曖昧に、もやもやと生まれた独占欲は、次第に大きくなり、今ではもう感情の抑制が利かなくなってきていた。
「俺と結婚してくれないか」
言いながら、もう驚いたりはしなかった。
そうだ。君と結婚したい。
恋愛はしないどころの騒ぎではない。
突然、心に吹き荒れた、君への想い。
それは時間や立場や、不道理なんかを通り越し、俺と君との距離を一気に縮める。
気が付けば…こうして、触れ合うほどの近さまで。
柔らかく触れた彼女の唇に、言葉では伝え切れない気持ちを一気に流し込む。俺自身もどうしてこんな展開になっているのか分からない。だが、溢れる感情を抑えきれない。
俺の首に絡みつく彼女の細い腕が、このまま離れなくなればいい。
その瞳に映ることができるものが、俺の姿だけだったなら。
唇を離してその目を見つめる。
涙を流す彼女を心から美しいと思う。
俺らしくもないな。こんなに呆気なく女に嵌るなんて。いやきっと、もっとずっと先から控えめで綺麗な早瀬を気にしていた。恋愛する気がないことを盾に、恋することを始めようとはしなかっただけなのだ。
早瀬に対しては初めから自分を抑えて、ブレーキをかけていないと危険だと分かっていた。警戒しながら意識してさらに気持ちを高めていたのか…?
色々自己分析をして考えてみるが、どれも当てはまるようでいて当てはまらないような気もする。
だが、もういい。認めてしまったならば、たどる道はただ一つ。
君を奪い、伝え、与え、守ること。
俺なしではいられないように、君を大切にする。
もっと俺を見て、知って、好きになってもらいたい。
どうやら俺は自分で思う以上に我が儘なようだ。
今さらジタバタと何を考えているのか。
俺は初めて知る自分の新しい部分の発見に自嘲的に笑いながら、婚約者に電話をかける彼女を見つめていた。