略奪ウエディング
二・魅惑の婚約者
ただ一言が欲しいだけ
――「おはよう、早瀬さん」
翌日。
デスクに座る私の肩を誰かにポンと叩かれ、私は振り返った。
そこには昨日と寸分も変わらない優しい笑顔があった。
「おっおはようございます」
「風邪は引いてないか?あれから心配だったんだ」
「い、いえ。大丈夫です」
「そ?よかった。気持ちは?沈んではいないか?」
「大丈夫です…」
「何かあったらすぐに言って?一人で悩まないで」
課長は私の肩に置かれた手をポンポンと撫でるように動かす。
周囲の皆がそんな課長を見て驚いた顔をしている。
ちょ…。こんな、堂々と…。
会社での課長の甘キャラへの激変ぶりにカチカチになる私とは裏腹に、課長はいつもと変わらないしなやかな動作で自分のデスクへと向かった。
皆の注目を浴びながらどうしたらよいか分からず俯いた私に、早速スミレが話しかけてきた。
「ちょっと!何、今の!なんで梨乃だけにいきなりあいさつするのよ?ずるくない!?」
「さっ、さあ?なんでかしらね」
適当にごまかして私はパソコンの電源を入れた。
びっくりした…。今まで一度も朝に会話したことなんてなかったのに。
周りはさぞかし不自然に思っているだろう。