略奪ウエディング
「梨乃」
ふと耳に入ってきた愛しい声に身体中が反応して私は涙を止めた。
雪の上を歩くきしむ靴音が近づいてきて、私の目の前で止まる。
そっと見上げると、そこには愛して止まない人の顔があった。
「え……っ」
驚いて泣いていたことを忘れそうになる。
これは幻なの…?
「片桐課長…」
その人の名を呼ぶと消えてしまいはしないかと思いながらも恐る恐る口にする。
「そんなに驚かないで。待ち伏せなんて柄じゃなかったな、やっぱり」
課長は緩く笑うと私と同じようにしゃがみこむ。
目の前に近づいた笑顔が、涙でにじんで次第にぼやけた。
「どうしてこんな…」
目すら合わせない日が続いた後にこんな風に現れるなんて。
「意地を張るのはやめたんだ。格好をつけて奪われてしまえば…自分を許せなくなってしまうから」
「え…?どういう…」
課長は私の手を取ってゆっくりと立ち上がらせると、優しい目で私を見下ろした。