略奪ウエディング
――「わあ。…綺麗」

近くのホテルの一室の窓から、雪に包まれていく街を見下ろす。
全てを覆い隠していく銀世界。
そんな中の、たかが私の恋など取るに足らない小さなものだろう。
だけど私は必死でそれを守り、すがり、求める。きっとこれからも。

「梨乃…」

課長が背後から私を優しく抱きしめる。

「きっと…優しくする余裕はなくなると思う。言いたいことは…言って?」

それだけ言うと、彼は私を抱きかかえた。

「きゃ…」

そのままベッドに下ろされる。
課長は私の服のボタンを外しながら、首筋にそっと唇を這わせた。

「電気を…消してくださ…」
零れ落ちそうな吐息を抑えて言う。

「ダメ」

すると返事が即答で返ってきた。

「見せて、全部。梨乃の全てが見たい」

「いや…、恥ずかしいです」

話しながらも服はどんどん脱がされていく。

「いや…」

私は強く目を閉じて現実から逃れようとする。身体を露にされることが、とてつもなく恥ずかしい。

「その代わり、俺が聞けることはしてあげるから。何かないの…?」

課長の指や唇が動くたびに甘く掠れた吐息が私の身体の奥から喉を伝ってこみ上げてくる。
私はそれを堪えながら目を開け、必死になって伝えた。

「…私の…私だけのものになって…ください。他の人を…見ないで」

課長は這わせていた唇を私の肌から外し、私を上から見下ろした。
私は息を切らしてそんな課長を見つめ返した。



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