略奪ウエディング
愛の自覚
朝。
俺はうっすらと目を覚まし、数回瞬きをした。
視界に入る天井の様子をじっと見つめてここが自分の部屋ではないことを思い出す。
ふと隣を見ると梨乃が俺の腕に頭をちょこんと乗せてすやすやと寝息を立てている。
その顔をじっと見つめる。
白く綺麗な肌。頬が微かな薄桃色に染まっている。
その下にある小さな唇を見ていると無性にキスをしたくなった。
腕の位置を変えないように身体を起こしそっと優しく、しっとりとその唇に触れる。
昨夜から何度こうして唇を重ねただろうか。
彼女の口が赤く腫れていることに気付いていても、欲望のままに何度も繰り返し求めた。
そっと唇を離して彼女の髪を撫でる。
サラサラと指の間を流れ落ちる綺麗な髪。
初めて梨乃を間近で見たときこの髪の美しさに見惚れた記憶がある。
こうして朝陽の射し込む中でまどろみながら触ることができる日が来るとは、あの時は微塵も思わなかった。
その長い髪をそっと掴んで唇を寄せる。
…ふと改めてまた考える。
寝ている女性にこんなことをする自分が何だか自分ではないように思える。
しばらく恋愛はするつもりはなかったのに。
いつから梨乃を愛しいだなんて思い始めたのだろう。
初めて気持ちを告げられた日の、梨乃の揺るぎない意思の表れた目を直視した瞬間からなのか。あの時に気付いたのか。自分の秘めたる想いを。
疲れ切ったようにぐっすりと寝入る梨乃を見つめながらもう少し優しくすれば良かったと後悔する。
俺が求めるままに全てに応じた彼女。
その健気でいじらしい可愛さに何度抱いても足りないと思った。
そうしていつしかお互いに疲れ果て、倒れ込むようになりながら、きつく抱き合って眠りについた。
触れ合う肌を一分の隙間もなく、このままずっと合わせていたいと思った。