略奪ウエディング
「もしかして、俺のことを考えていた?」

課長は腰を折って私の目線の高さに自分の顔を下げると、私を間近から見つめた。
ドキ。うわ。

「違います」

私は驚きを隠して否定する。

すると課長が「何だ。違うのか」と残念そうに言いながら顔を元の位置に戻した。

私はドキドキする胸を押さえて課長を見る。

「もしもそんな可愛い理由だったなら、許してあげてからご褒美をあげようと思ったのにな」

え?
私の心臓がさらに大きく鳴り響く。
課長に聞かれてしまいそうなほどに。

「ご褒美…?」

つい期待を込めた目線で彼を見てしまう。

「あれ?欲しかった?じゃあ本当のことを言わないと」

「う…」

私は黙ったまま課長を見つめていた。課長はニコニコと私を見返している。
黙って見つめ合ったまま、相手の出方を待つ。

「意地悪…です」

私はとうとう降参して呟いた。

「ははっ。ごめん、いじめちゃった」

課長が私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「…平気でなんて、いられません。あれからずっと…。課長のことだけ…」

幻滅されてもいい。本当のことだから。課長しか、見えなかった。
一度その胸に抱かれてしまったなら、もう、何も考えられない。

「…上司としては…、いただけないけど。恋人としては、…最高だね。
ここはもう、怒れないな。
梨乃の勝ちだね。ご褒美はやっぱりあげないと」






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