略奪ウエディング
「金沢の人は雪で滑ったりしません。慣れているんですよ」
「でも危ないだろ」
俺がそう言った直後、「きゃ」と声を上げて梨乃がつまずき、転びそうになる。
「うわ」
俺は慌てて彼女の腰を抱くように受け止めた。
「ほら、言っただろ」
梨乃は俺の胸に身体を預けたまま、大人しくなった。
「ごめんなさい」
俺の胸に置かれた彼女の手の薬指には、ダイヤの指輪が光っている。
俺は梨乃を離さないままで言った。
「金沢に来て、梨乃と出会えて本当に良かったと思ってる。たくさんいる人の中で、君が俺を好きになってくれて良かった。…ありがとう」
「課長…」
「課長はなし。…名前で呼んで」
梨乃の頬を両手で包んで、その目を見つめる。
「…悠馬。ありがとう。私、今日のことは一生忘れません。指輪、大切にします」
潤みがちな大きな瞳から目が離せない。
こんな風に誰かを守りたいだとかこれまでに思ったことはなかった。
出会って恋に落ちた奇跡が信じられないだなんて言ったなら、俺を知っている人が聞けばきっと笑うだろう。
お前らしくはないと。