略奪ウエディング
四・亀裂
彼の真実
「とても美味しいです。本当に自炊しているのね」
私は課長の作ったチキンソテーを口に入れて驚いた。
「そうだよ。なかなかでしょ?」
彼は得意げに上目遣いで私を見ながら笑う。
私の家を出てから彼の元気がないことには気付いていた。そういう私もショックでテンションが下がっているのだけれど。
私は彼のためにウエディングドレスも、白無垢も着ることが出来ない。
私のせいで彼のご両親も、息子さんの結婚式に参加出来ない。
それがとても悲しかった。
お父さんに、結婚式はしないように言われて結婚自体を反対されるのが怖くて思わず了承したけれど、やはり諦められない気持ちが今はあった。
結婚式が無くなったのも、もとは全て私のせいなのだから。結婚が決まる前に課長に気持ちを伝えるべきだった。私は婚約してから告白するという、ずるい保険をかけていたのだと今になって自分を責めていた。
「梨乃?食べないと冷めるよ?」
彼は料理を取り分けて私のお皿に載せながら言う。
香ばしいソースの香りが私の鼻腔をくすぐる。
「…ごめんなさい」
私は彼にポツリと謝った。
「ん?どうして?」
「私のせいで…こんなことになって。ご両親にも、申し訳なくて…」
私がそう言うと彼は優しい笑顔で言った。
「梨乃のせいじゃないよ。俺が悪かったんだ。君を奪って破談にしたんだから。結婚式は無理でも、写真だけは撮ろうね?俺も梨乃の花嫁姿がやっぱり見たいからさ」
「…はい」
私は課長に顔向けできないような気持ちになって俯いた。