略奪ウエディング
私の唇がカタカタと震え出す。何も言わないで。これ以上、何も…。
「彼が土下座をしたとき…本気なのだと分かった。…その隣で泣き出した君を見て…泣かせたくはないと思った」
私の目からも涙が溢れ出してきた。
「俺の、…存在が、君の幸せの邪魔をしている。それが嫌だった……」
「やめて…くだ…さ…」
立ってはいられなくなりそうなほどの罪悪感が私を襲う。
「君を…楽に…してあげたかっ…」
東条さんの目からも涙が次々とこぼれていく。
彼はもう、話せなくなるほどになっていた。
「ごめ…なさ…」
彼はどんな気持ちで私を侮辱したのだろうか。自分を偽り、私の幸せを願った。
そんな事をさせてしまった自分が許せなくて、どうしたらよいか分からなかった。
私たちはしばらく、気持ちが落ち着くまで黙って泣いていた。
『幸せになろうね、…梨乃さん。子供をたくさん作って、楽しく…』
…全ては嘘ではなかった。
彼の夢を、私が壊した。
…課長を、愛しすぎているために。
申し訳なくて、悲しくて、どうにかしたい。
でも、私の心にはいつでも課長だけ。どうしようもないくらいに…。
「…もう、帰って…?ありがとう。……もう、大丈夫だから、もう…来ないで。俺を、忘れて。幸せに」
私は返事をすることすら出来ずに病室を出た。
課長に会いたくてたまらない。だけど、今日は会ってはいけない気がした。
身を切られるような思いを抱えたまま、私はとぼとぼと病院の暗い廊下を歩いていた。