略奪ウエディング
課長と顔を見合わせてしばらく見つめ合ってから、お互いにプッと吹き出した。
課長の綺麗な笑顔が私の心の中の悩みを洗い流す。
やっぱり好きだと思う。
東条さんの涙を忘れた訳ではないのに、課長を見るとやっぱり私には課長しかいないのだと実感する。
「こら!そこのバカップル!ラブ光線発射禁止!」
スミレが私たちに言うと、課長がスミレをの方を見て怒ったふりをする。
「矢崎!上司に向かって何だ、その言い方は!」
「うわ!すみません!やばっ」
「……なーんてな。悔しかったら君も彼氏をつくれ」
「なっ…!ひっどーい!私は理想が高いんですぅ!」
皆が笑う。
私も課長も一緒に笑った。
ここには幸せが溢れている。
課長のそばで、こうしていつまでも笑っていたい。
「はいはーい、では、おめでたい二人に花束贈呈〜」
言いながら大きな花束を抱えて前に出てきたのは、以前私に告白した牧野くんだった。
「課長、俺の話、心に喝、入りました?ね?奪われちゃ困るでしょ」
彼が花束を課長に差し出す。
「ああ。…痛かったよ。君のお陰だ」
課長はそれを受け取り彼に微笑んだ。
「ありがとう」
そう言って皆に頭を下げる課長に習って私もお辞儀をした。
そんな私たちに皆は温かい拍手をいつまでも贈ってくれていた。
東条さん。本当にごめんなさい。
心の中で彼に詫びながら考えていた。今日、病院に行こう。もう一度会ってきちんと話をしよう。
「…梨乃、どうした?」
黙った私に課長が小声で尋ねた。
「いえ、何も。幸せです」
私は課長には東条さんのことは何も話さずに、笑顔を向けた。
課長もそんな私に極上の笑顔を返してくれた。