略奪ウエディング
「同情ではないです。私、話がしたくて」
「俺はしたくない」
「東条さん」
頑なな態度を見せる彼の手が、震えていることに気付く。
「ごめんなさい…でも私…」
私が言いかけると彼は私の手をそっと握った。
「え…」
私は彼を見つめた。
「俺が…贈りたかった」
……あ。
婚約指輪を見て彼が言う。
「ごめんね…、言わないつもりだったのに…、目の前に君がいたから、つい…」
「いいえ」
「泣いたりなんかして、情けなかったね」
「…いいえ」
「俺のこと、怒ってるよね」
「…………いいえ」
彼は私の手を離してニコッと笑った。
「本当に、気にしないで。事故の後だったし…弱気になっていただけなんだよ…」
「私…片桐課長のこと、本気で好きだったんです。…ずっと。でも、叶わない恋だと思っていたから諦めていた。
東条さんとのこと、本当に本気で考えていました」
話さなければならない。私が考えてきたこと。私が思っていること。
隠さずに、東条さんに説明する義務がある。
「聞いていただけませんか。私の気持ちを…。そしたら、二度とここへは来ません」
東条さんはフーッとため息を吐くと、「分かったよ」と言って頷いた。