略奪ウエディング
信じたい
部屋に帰って部下から預かった業務報告書をずっと見ていた俺は、一旦作業の手を止めて目頭を指で押さえて天井を見上げた。
瞼の裏の暗闇の中、梨乃の顔を思い浮かべる。
今日の彼女の様子が何故かおかしいように思えていた。皆に祝ってもらっているときもその笑顔に陰りがあったような…。
何があったのだろう。
結婚式ができないことで彼女が落ち込んでいたこととは何か違う気がしていた。
ピンポン。
その時、部屋のチャイムが鳴る。
時計は八時を指していた。
「はい」
インタホンを取る。
『早瀬です』
「梨乃?どうしたの」
驚いて答える。
今日は早々と退社したはずなのに、まだ帰ってなかったのか?
「今開けるから入ってきて」
俺は正面玄関のオートロックを解除して彼女を待った。
ピンポン。
再び部屋のチャイムが鳴り、玄関のドアを開けた。
「梨乃?まだ帰ってなか…」
俺が話しかけた瞬間に、彼女は俺に抱きついてきた。
「え?何、どうしたんだよ」
俺は彼女を腕に包んだまま訊ねた。
「会いたくて…」
細い声で彼女が言う。
「とにかく入って。寒かっただろう」
梨乃を抱えた体勢のまま玄関のドアを閉める。
彼女は靴も脱がずにそのまましばらく俺にしがみついていた。