アイスブルー(ヒカリのずっと前)
坂道を駅の方向に降りて行く。
しばらくバイトをしていない。
家にまっすぐ帰るのも、気が乗らなかった。
拓海は朝の出来事を思い出した。
あの女性が曲がった角を見る。
茂みと茂みに挟まれた、狭い上り坂。
拓海はあの道をあがったことがなかった。
自然と足が向かう。
上り坂の入り口に立った。
薮が左右から生い茂り、小さな屋根を作っているように見える。
風が吹き抜ける。
柔らかな緑の香り。
この道をあがって行ったからと言って、彼女に再び会える訳ではない。
会ったところで、話しかけるたりもできない。
けれど拓海は無意識に足を踏み出していた。
すぐに息が上がってくる。
坂を上りきると思わず「はあ」と声がでた。
道はまっすぐ一本。
拓海はゆっくりと歩を進める。
風が気持ちよかった。
拓海の白いシャツを膨らませる。
黒髪が風でなびき、広めのおでこがむき出しになる。
「もうすぐ夏」
拓海は目を細めて空を見た。
流れる雲。