アイスブルー(ヒカリのずっと前)
がたんごとん。
規則的な揺れが、足を伝ってあがってくる。
拓海はふとポケットに手をいれて、カメラを取り出した。
身体の向きを変えて、窓の外の海にレンズを向ける。
「せっかく来たのに海の写真撮り忘れちゃった」
「そうだった」
結城も身体の向きをかえて、窓に額をつけるように外を見た。
拓海は木々や家々の間に見える一瞬の海をカメラでとった。
自然と結城にカメラを向ける。
だんだんとオレンジ色を帯びてくる日差しが、結城の頬を照らす。
「一緒にとる?」
結城がいった。
拓海は結城の腕に身体をよせて、片腕をのばしてカメラを構えた。
「海、うつる?」
結城が訊ねる。
「わかんない」
拓海はシャッターを押した。
二人で画面を確認する。
「民家がばっちりうつってる。」
結城が笑った。
「海に来た記念にとろうと思ってたのにね。でもいい顔してる」
拓海は再びカメラを結城に向けた。
「撮るなよ」
結城が顔を背ける。
「なんで?」
「一人でとったって、誰が見るんだ?」
「ナツキちゃんにあげるよ」
「いらないって」
結城が下を向いた。
「こっち向けって」
拓海が結城の袖をひっぱった。
「売るなよ」
結城が冗談めかして言った。
「売れるかな?」
拓海は画面の中の結城に問いかけた。
「たぶん。ナツキが買う」
「なんだ」
拓海は画面から視線を外し、結城の顔を見て笑った。
再び画面を見る。
結城がなんとも言えない顔をして、カメラを見つめている。
「どうしたの?」
拓海が訊ねた。
電車はどんどん海から離れていく。
結城の身体が電車のリズムで揺れている。
「俺は何色?」
結城が言った。
「……見えない」
拓海はシャッターを押した。
「いままでは?」
「一度も見えたことがない」
拓海はカメラを膝に下ろした。
「そうか」
結城はそう言うと、窓の外に目を向けた。「
他にも見えない人いる?」
「いるよ」
拓海は答えた。
「見えるのと、見えないのと、違いはなんだろう」
結城が首を傾げる。
「でも見えなくてよかった」
拓海はポケットにカメラをしまった。
「余計なこと知りたくないだろう?」
結城は拓海の顔をしばらく見つめ、それから静かに「そうだな」と言った。