アイスブルー(ヒカリのずっと前)
ほったらかしにしていた、朝食に使った食器を洗い出す。
鈴音と母親は同じ歳だ。
鈴音は産まなかった。
母親は産んだ。
艶のない母親の髪を思った。
疲れて余裕のない毎日を思った。
女性一人で子供を産み育てるということが、どれほど大変なことなのか、拓海は目の当たりにしてきた。
経済的なこともそうだし、精神的にもそうだ。
母親は自分の両親を頼ることをしなかった。
どうしてかは聞いたことがない。
おそらく、子供を産んだことでひどく両親に責められたのだろう。
祖父母とはほんの数回だけ、会ったことがある。
祖父はちらりと拓海を見ると、あからさまに目を背けた。
祖母は拓海を見て微笑んだが、祖父の強い視線に気づいて、拓海に手を差し伸べる前に退いた。
これからもきっと、祖父母と和解することはないのだろう。
拓海は自分の命が、どれほどの犠牲の上に成り立っているのかを、改めて痛感した。
「鈴音は耐えられなかったんだろう」
拓海はそう思った。
鈴音の泣いている映像を思い出した。
唇を噛み締めて、堪えている。
鈴音を断罪しようとする母親の姿や、鈴音をかばう祖母の姿を思い返した。
悲しい。
鈴音を思うと悲しい。
拓海は殺され、人生を奪われた。
あの人の側で過ごす時間を、奪われたのだ。
口惜しくて、悲しくて、泣きわめきたい。
それでも、
それ以上に強く、
自分の胸の中にある、
消えない感情。
「どうしたら、いいんだ……」拓海はつぶやいた。