アイスブルー(ヒカリのずっと前)
ふと前方を見ると、古びた一軒屋が目に入った。
拓海の視界に、青白い光が一瞬走る。
拓海は立ち止まり、目をこすった。
「気のせい?」
ゆっくりと歩いて、玄関先までたどり着く。
建物を見上げると、相当古い、昔ながらの日本家屋だということがわかった。
敷地は中程度。
グレーのブロック塀が積み上げられている。
塀の模様の隙間から、青々とした雑草が道路にはみ出していた。
「人は住んでるのかな?」
拓海は鉄の門扉の上から顔をのばして、中をのぞいてみた。
彼女はいた。
庭先で布団を取り込んでいる。
彼女の胸元あたりに、青白い光が見える。
拓海は思わず身を乗り出した。
すると鍵がかかっていなかったのか、門がきしんだ音をたてて開いてしまった。
彼女は顔をあげ、拓海の顔を見て驚いた様子を見せた。
拓海も思わず「あ」と声をあげる。
彼女は少し首をかしげ
「何か御用ですか?」
と問いかけた。
パーカーの袖は捲し上げられ、細い腕で布団を抱えている。
拓海はあわてて「すいません」と手を振った。
門をすばやく閉める。
拓海はもう一度「すいません」と言うと、その場を去ろうと向きを変えた。
すると背後から
「朝、会った子でしょう?」
と声をかけられた。
拓海は振り向く。
彼女は布団を縁側におくと、拓海の方に歩いてくる。
拓海は思わず後じさった。
青い光が一層強く光る。
「もしかして、以前に会ったことがある? わたしのことを知ってるようだったから」
彼女は笑顔を見せた。
「いえ……すいません。違うんです」
拓海は何を話していいのかわからず混乱して、逃げ出したかった。
「そうなんだ。わたしがすっかり忘れちゃったのかと思って、申し訳なく思ってたの。中学生?」
「……高校三年です。あの、失礼しました」
拓海は彼女に背を向けて、走って逃げだした。
心臓がばくばくと脈打ち、冷や汗が身体中から流れ出ている。
一気に坂の下まで駆け下りて、拓海はやっと振り返った。
「びっくりした」
肩で息をしながら、声に出していう。
青白い光。
やっぱり自分の目で見えた。
「誰なんだろう、あの人」
拓海はしばらく考えていたが、気を取り直して駅の方向へ歩き出した。